ADEXのクリエーターにスポットを当てて、実際に担当した仕事を軸にインタビュー形式でクリエーティブについていろいろと語ってもらう「ADEXクリエーターズファイル」
その2回目はADEX CD局のクリエーティブディレクター、CMプランナーの角川 知紀(すみかわ かずのり)さんに過去の広告賞を受賞した作品を中心にクリエーティブについてインタビューしました。前編、中編、後編の3回に分けてお届けします。〈インタビュアー ADEX総研 天野 泰司〉
さっそくですが、僕が角川さんの広告賞を受賞した一番代表的な作品の一つとして記憶しているのは2017年に公開された東亞合成アロンアルフア「君に、くっつけ!」の動画で、これは2019年の広告電通賞フィルム広告部門での金賞や、2018年のACCフィルム部門Bカテゴリーでファイナリスト、マーケティング・エフェクティブネス部門でもファイナリストに選ばれました。この受賞について、そのときをふりかえって角川さんの感想はどうでしたか?
角川:そうですね、率直にうれしかったです。あと、安堵した気持ちもありました。
というのも、クライアントの広告担当がかなり社内調整をがんばってくれて、あそこに行くまで結構たいへんだったので結果が出せてうれしかったです。
実は担当者が完成したビデオを役員の方々に見せたところ、会議室が凍り付いたように静かになったそうです。それでも振り切って進めることを選んでくれました。
こうした一連のクライアントの担当部署の協力によってできた作品なので、広告賞を受賞できて、そして大きな結果も出たので上手くいったとホッとしました。
当時のクライアントのTVCMはいわゆる実証CMで、過去にはカンヌライオンズで受賞した実績もあり「君に、くっつけ!」はそれまでとは全く異なる方向性の広告となった訳ですが、ADEXがTVCM制作に関わったのは「バーベル篇」からだと記憶しています。
その「バーベル篇」での制作意図や採用されたポイントを教えて下さい。
角川:それまではTVCM制作は、他の広告会社が担当していて、私を含めて制作チームはクライアントへのプレゼンは初めてでした。
そのときもオリエンでは実証CMの方向が示されましたが、CDとも話し合って実証CMとそうでないCMの二方向を提案しました。世の中に相当数のコンテンツや情報があふれている時代なので、今までと同じTVCMでは埋もれてしまうのでは?という考えもあり、あえて実証CM以外も提案したという背景です。
角川:プレゼンした後、追加としてプロモーションの提案も求められました。
そこで「バーベル篇」に合わせたプロモーションとして、例えば、OOHで「天井にバーベルをくっつけたように見える中吊り広告」とか「アロンビリーバボーというメインコピーに合わせて、アロンアルフア味の棒状のお菓子をつくる」など、いろんなアイデアをたくさん出した結果、面白い会社だと思っていただけたようです。
天野:今からふりかえると、最初のTVCM制作のときから、クライアントから求められる以上の提案をしていたわけですね。この流れの延長線として、例の「君に、くっつけ!」につながったのですか?
角川:実は「バーベル篇」の時からは広告担当の方が代わっていて「君に、くっつけ!」では新しい担当者になりました。その方の思っている課題が代わったことが大きかったです。新しい方は、アロンアルフアが若者に知られていないことに強い問題意識があり、これをなんとかしないといけないということからプロモーションの依頼をいただきました。
天野:そうだったのですか…。新しい課題である若者向けのプロモーションとして、今までの実績がある実証CMでなくて、あのアニメの「君に、くっつけ!」になったのですね。
角川:細かい話ですが、実は「君に、くっつけ!」は正確に言えばアニメーションではありません。ビデオコンテと同じ手法でムービーを制作しました。時間も予算も限られていたので、ちゃんとしたアニメーションにしてしまうと制作が難しかったため、絵をコンテライターの方に書いていただき、動かせば色々クリアできるのではないかと…、考えました。
また、コンテライターの方は、基本的にプレゼンまでが仕事の領域で、彼らの作画は世の中に公開されないことがほとんどです。完パケにして世に出すまで担当してもらうということであれば、コンテライターの方々からの協力も得やすいのではと思いました。
天野:アニメーションじゃないのは始めて知りました!
言われてみれば確かに人物などの動きは少なく、紙芝居みたいな印象ですね。でもその辺りが逆に見る側からすればひっかかったのかもしれませんね。
角川:私も公開した後、皆さんがアニメだと認識してくれることを知って、ひとつの収穫となりました。
「君に、くっつけ!」の全体のストーリーは、“アロンアルフア宣伝部の妄想”という話なので、宣伝部の妄想の部分がビデオコンテになっているという設定です。また、実際の現実(オチ)は実写と、二段構造になっているわけですが、全体の流れをうまくつくることができたと思っています。
若者に刺さる広告にするために、アニメ風のムービーにしたのではない、ということですね。
角川:いきなりアニメでやろう!いわゆるアニメありき、という訳ではなかったですね。
チームで戦略を話している中で、“若者は接着剤に誰も興味ないよね”という話があがり、ここが大きな課題だと捉えました。
若者が興味のない接着剤にあえて興味を持ってもらうためには何か繋ぐものをつくらないといけない。アロンアルフアには「何かと何かをくっつける」というブランド価値がある。一方、ターゲットである若者には「誰かと仲良くなりたい」というインサイトがある。その「仲良くなりたい=くっつきたい気持ち」と定義し「アロンアルフア=誰かとくっつきたい気持ちを応援するブランドになる」という戦略が背景にあります。その中で、アニメーションという表現を提案したという流れです。
天野:なるほど。ただ、アニメムービーという今までクライアントが全く行ったことがないプロモーションを提案するとき反応とか怖くなかったですか?
角川:担当部署はきちんと課題認識や意図を理解してくれて受け入れてくれました。
クライアントもアロンアルフアの若年層の認知向上がなによりも大きな課題として認識されていたので、必ず成功させたいという想いがありました。今から考えると、お互いかなり思い切った企画を進めたと感じますが、同じ危機感を共有できたことがよかったように思います。