前編から中編では、ACCフィルム部門Bカテゴリーでのファイナリスト受賞から他作品、さらには角川さん自身のキャリアや制作に関わるスタイルなどお聞きしまた。最後の後編では、これからのCMや、やりたい仕事などについてお聞きしました。〈インタビュアー ADEX総研 天野 泰司〉
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天野:商品を売るためには生活者を動かすことが必要ですが、PRとなると社会をうごかすことまで広げないといけないので、大変じゃないですか?なにかそのためにトレーニングとかしているのですか?
角川:世の中がどういうことに関心があるのか、見るようにしています。
それをなるべくたくさん知っておくことで、世の中の関心事と商品が交わるところをみつけるようにしています。うまくいかないこともありますが…。
天野:ちょっと意地悪な質問ですが、クライアントの依頼通りに“いわゆる置きに行った”提案は角川さんはやらないのですか?
角川:やらないです。これはある人の受け売りなのですが「自分の棺桶にいれてもいい企画にする」という言葉がありまして…もちろん自分の作りたい作品を作るわけではないですが、そこまで熱量を込めたものの方が、広告としてもいい結果が出せることが多いと感じます。もちろん事情で難しいこともありますが、その中でもなんとか諦めないようにしています。
天野:最近、角川さんが関わったCMでは西濃運輸がありますが、そのときはどのような企画を提案したのでしょうか?
角川:最初、クライアントからはサービスの訴求をしたいというオーダーがあったのですが、物流は圧倒的に有名な企業がいくつかあり、そこと戦うためには、まず知られていないとサービスが選ばれにくいのでは?と考え、企業広告を作りました。CMの前に新聞広告の提案をしていて、そのときから企業広告〜サービスに落ちていく広告を提案しています。
天野:この新聞広告はシンプルでしたが非常にわかりやすかったですね。
特に「SEINO LIMIT」というコピーは良かったですね。
角川:もともと、クライアントには「NOと言わないセイノー」という行動規範があったのですが、今の時代にわかりやすく言い換えました。クライアントに気に入っていただけ、経営計画にもコピーが採用されています。このことを通じて、ADEXの存在感や信頼感がかなり強くなったと思います。
天野:ほんと、あのコピーは「SAY NO LIMIT」と読めば行動規範を示して、さらに企業名を盛り込んでいて秀逸ですね。
ところで話は変わって個人的な部分ですが角川さんの眼鏡遍歴を質問したいのですが、角川さんは眼鏡を何本くらい持っているのですか?それをどう使いわけているのですか?
角川:あはは(笑) 結構、気分転換で使い分けています。10本くらい眼鏡を持っていますが、私は顔が薄いので、眼鏡かけたら顔が完成すると思っていまして…。
天野:その使い分けは時期によってとか、クライアントに合わせてとかですか?
角川:日によって違う感じです。クライアントから眼鏡を突っ込まれることもあり、盛り上がることもあるので、それはそれでいいのかな…と思っています。
天野:でも、さすがに10本となると金額もかなりになるんじゃないですか?
角川:そうですね。意外とお金かかっています(笑)
天野:眼鏡はどこかのメーカーのものですか?
角川:メーカーというか、アンティークです。今かけている眼鏡は昔の形を復刻したものです。アンティークメガネの世界はなかなかおもしろいですよ。いまや眼鏡は大衆品ですが、昔は貴族が使うものなので、高級品でした。だから今の眼鏡のように画一的なサイズで作られてなくて、デザインは少ないですが、同じデザインでサイズ違いがたくさんあります。例えば、アンティークでは両目の間のブリッジの寸法が1ミリ単位であったりするんです。
今の眼鏡はみんながかけられるように大きめに作られているので、サイズがなかなか合わないこともあります。似合うメガネがないと思っている人ほど、アンティークを選ぶといいと思います。
天野:なるほど、そうですか…。
角川さんは日々、アンティーク眼鏡を探していろんなお店に行っているのですか?
それと、アンティークは一点ものなので手に入れるのが大変なんじゃないですか?
角川:すごい有名な店が一店舗あって、今はそこでだけしか行っていないです。ちょっと高いので購入に毎回悩みますが、かけ心地はめちゃくちゃ良いです。それに今にないデザインの眼鏡が手に入ります。
天野:さて、残り少ない時間となってきましたが、角川さんも入社されてそれなりの月日がたちましたが、入社されたときから、今とを比べて、クリエーティブの変化をどのように感じていますか?
角川:ほんと、大きく変わりましたね。
最近、20年前くらいの海外のCMを見直し始めているのですが、顕著なのは今の広告はめちゃくちゃしゃべるようになりましたね。昔はノンバーバルというか会話はほとんどなかったですが、最近はパーパスを伝えるようになったので、ブランド哲学をしゃべるような広告が多くなっているように感じます。
あとは、ずいぶん前からですが全世代で共通に流行するものがなくなりました。小さいコミュニティがたくさんある状態なので、マスメディアでものすごい金額をかけない以外、かなり緻密にターゲットへ当て方を計算しないと拡がりにくくなっているなと思います。
天野:20年前くらいから広告賞を見直し始めているとのことですが、なにか注目しているテーマとか、研究していることとかありますか?
角川:「直感力」を鍛えることをテーマとしています。事例をたくさん見ていると、あのときはこういった問題があり、こういった解決をしていたのかという過去のケースをたくさんみることができます。新しい仕事が来ると、あの事例に少し似ているな…だからこういう解決をすればいいのか…と思いつくこともあります。そういう直感みたいなものを鍛えたい!と思ってやっています。
天野:では、最後に角川さんが今後どういった仕事をしたいのか、なにか希望がありますか?
角川:たまにどんな仕事したいのか聞かれますが、特に商材とか分野のこだわりはないです。
強いて言えば、AからBへとチェンジするような矢印をつくりたいと思っています。
天野:チェンジさせることってなかなか難しいことですよね。
角川:そうなんです。すごく難しいですね。基本的にブランディングは、良い裏切りなどの変化をやり続けることだと思います。停滞して悩んでいるところを少し変えて、価値を一変させるお手伝いをしたいですね。
それを真面目ぶってやるのも良いのですが、少し笑わせながらできれば!得意なのはぶっ飛んでいるやつですかね…(笑)
天野:(笑)真面目な角川さんですが、涙を誘うような演出よりも、そういった笑いとか驚きがある演出が得意なような気がします。
角川:それでいうと、最終的なアウトプットを見たときに何でこうなったのか分からない広告をつくりたいです(笑)
テレビなどで、どうプレゼンしたのか分からないけど印象的なCMがありますが、そういう企画がすごく好きです。プレゼンした人の話を聞くと、(当たり前ですが)すごくちゃんとしたロジックがある。それにまた驚いたりしますが(笑)、アウトプットを見たときにそのロジックが見えてしまう広告よりも、なんでこうなったのか分からない広告にはもの凄いパワーがあるなとも思います。
あるクリエーターの方が言っていて影響を受けた言葉がありまして…「コンセプトの重力」という言葉なのですが、これはコンセプトを決めることはすごく大事だけど、一度決めるとそこからジャンプすることが案外難しいということです。抜け出すためには「コンセプトを決めたあと、そのコンセプトをいかに自分で忘れるかが大事だ」と言っていたのですが、まさにその通りだなと。なかなか難しいですが、肝に銘じて意識するようにしています。
天野:なるほど…。それができるのがプロなんですね。
角川:私もコンセプトの重力に負けないよう思い切ってクリエーティブジャンプをしたいと思っています!
天野:ほんと、これからも期待しています。
本日はいろいろと楽しいお話を聞かせていただいてありがとうございました。また時間があるとき眼鏡の話も聞かせて下さい。本日はどうもありがとうございました。
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