前編では「テレビインフォマーシャルとは」を中心に、その目的や長尺・短尺の種類、想定するターゲット層や構成要素について取り上げました。後編では、視聴者に対して「今、行動していただく」ための、テレビインフォマーシャルに内在される「行動経済学」の要素を取り上げ、消費者心理について解明していきます。
■ ≪前編≫
■ ≪後編≫
テレビインフォマーシャルは、「今、買っていただく」ための手法である
前編でも述べましたが、テレビインフォマーシャルの主な目的は、視聴者に対して商品やサービスの購入につなげることです。そして、その「行動」としてテレビで放映して電話をかけさせる(またはWEBに誘導させる)ので、「直感的」な行動を誘発するものである必要があります。
ここで、直感的な行動について理論解説するために、行動経済学における世界的な書籍、ダニエル・カーネマンの著書『ファスト&フロー』を参考にします。タイトルの「ファスト」とは直感(=システム1)を、「スロー」とは論理=時間をかけて熟慮(=システム2)を指し、人は場面ごとにシステム1と2を使い分けます。システム1を使っているときは、じっくり考えることはせず素早く情報を把握・判断し、「ヒューリスティック」※を使います。一方、システム2の場合、脳は過去の経験などを元に思考し、情報を分析したうえで把握・判断します。
今回のテーマ、テレビインフォマーシャルは「直感」ですので、「システム1」が脳内で働き、行動につながっていると言えます。そしてこの、「システム1」の特徴として行動経済学の様々な効果があるので、それらとともにインフォマーシャルの具体例を取り上げていきたいと思います。
※ヒューリスティック:経験則や先入観に基づいて直感的に判断する思考法や手法を指します。心理学用語で、「発見的手法」とも呼ばれます。
テレビインフォマーシャルに内在される「行動経済学」の様々な効果について
行動経済学においては様々な書籍やインターネット上のサイトで紹介されています。ここでは、前編で取り上げた、「AIDAの法則」に則って各効果について具体例を出しながら説明していきます。
主にAttention(注意)で使われる効果:視聴者の注意を惹くために活用
カクテルパーティー効果:
騒がしい環境でも興味のある話題や自分に関連する音声を無意識に聞き取れる脳の働きのことで、「選択的注意」とも呼ばれます。ターゲットを明確に打ち出すことで、人は「自分に関係している」と感じ、目に留まりやすくなります。
【例】女性の皆さん!/70代以上の皆さん!/北海道の皆さん!/(プロ野球番組で)野球中継をご覧の皆さん!など、視聴者に「あなた向けの商品ですよ」と呼びかける
主にDesire(欲求)で使われる効果:商品の信頼感を醸成する際に活用
社会的選考・バンドワゴン効果:
多数の人が支持している物事に対して、よりいっそう支持が高くなる効果のことを言います。時流に乗る、勝ち馬に乗る、多数を支持するという意味を持ちます。周囲の目を気にして行動を決定する、「右にならえの日本人」と言いますが、みんなと同じものだと安心しますよね。
【例】日本で一番売れている、No.1/100万個突破/品切れ続出!/愛用者をたくさん登場させて多くの方に支持されている演出など
ハロー効果:
ある対象を評価する際に、その一部の特徴に引きずられて全体の評価が歪ん
でしまう現象。心理学用語で、認知バイアスの一種に分類されます。
【例】有名タレントやインフルエンサーが「私も使っている」というコメントや、権威者(有名大学の医者や教授など)のお墨付など
主にAction(行動)で使われる効果:
アンカリング効果:
最初に提示された情報や数字が基準(アンカー)となって、それに引っ張られてその後の判断が無意識に左右されてしまう心理現象。こちらも、心理学における認知バイアスの一つです。
【例】「通常1か月分4,000円の商品が、なんと初回半額の2000円!」など
時間的圧力(タイムプレッシャー):
時間制約がある中で意思決定を行う際に消費者が知覚する焦りやストレスのことで、時間的圧力がある人はヒューリスティックを用いて意思決定してしまいます。
【例】「この価格で購入いただけるのは今から30分限定、今すぐお電話を!」など
フレーミング効果:
同じ意味を持つ情報であっても、焦点の当て方によって、人はまったく別の意思決定を行うという認知バイアスのことです。
【例】「初回無料!送料500円のみご負担いただきます」と「初回500円、送料無料!」→前者の方が効果的/「価格は1,800円、1日あたり60円」→1日あたりだと100円以下になるので安いと感じる など
損失回避性・保有効果(プロスペクト理論):
「損失回避性」とは、利益を得ることよりも損失をより強く嫌う心理傾向です。同じ金額であっても、損失する場合の方が取得する場合よりも強い感情を経験することが知られています。一方、「保有効果」は、自分が所有しているものを実際の価値よりも高い評価をしてしまう心理傾向のことです。
【例】「期間限定特別価格」「先着100人限定」→損失回避性・保有効果が働き、損をしたくない、他の人に取られたくないという思いが購買行動につながる
現状維持バイアス(プロスペクト理論):
変化を避けて現状を維持したいと考える心理傾向のことです。
【例】定期コースが、「ずっと続けないといけない」という、損失回避、現状維持行動につながり、興味があっても電話をためらってしまう→定期誘導ではなく、お試しにする、または「いつでも解約可能」と伝えることで、心理的ハードルを下げる など
テレビインフォマーシャル以外でも通販ビジネス使われる効果
参照点・コントラスト効果:
2つ以上の物事を比べた時に差があると、実際の差より大きな差として感じられるという心理的な現象のことです。普段あまり購入しないものは相場がわからないので、価格の基準がないため、最初に見たものを参照点にするので、その後に見る価格を安く(高く)感じます
【例】最初にプレミアム商品(高額)を見せた後、それよりも安価で始めやすい商品を「まずはこちらからどうでしょうか」とおススメする など
極端の回避効果:
選択肢にグレードがある場合に、真ん中のグレードのものを選ぶ傾向にある心理効果です。松竹梅の3つの選択肢があると「竹」を選ぶ人が多いことから、「松竹梅理論」とも呼ばれます。
【例】商品グレードが2つではなく3つにするなど
サンクコスト効果:
過去に投資した時間や労力、お金などを惜しんで、それによって得られるリターンが期待できない状況でも継続してしまう心理効果のことです。
【例】お客様からの解約電話の際に、「せっかくここまで続けていただいたので、もう少し続けると実感いただけるかもしれない」と言って解約意思を引き延ばす など
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いかがでしたでしょうか。
これらは行動経済学の中でも一例になります。この他にも、まだ「〇〇効果」と実証されていないものの、消費者心理に基づいて作られているものも存在するかもしれません。このような視点でテレビインフォマーシャルをご覧いただくと、作り手の工夫も見えてくるので、より面白く感じられるのではないでしょうか。
ADEXではこのようにテレビインフォマーシャルに対しても理論に基づいてご提案いたします。ご興味ございましたらお気軽にご相談ください。
ADEX 株式会社日本経済広告社
業務推進局 業務推進 アカウントディレクター
佐々木 貴士
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